【組織変革#1】経営層が語る、自分たちの価値観が崩れた瞬間
近年、企業の組織変革に注目が集まっていますが、その成功事例のひとつが建築業界のGCストーリー株式会社です。2018年より始まった彼らの組織変革は、「ティール組織」や「ホラクラシー組織」等が当時ブームとなる中で、ヒエラルキー型から自律共創型への稀有な組織変革を遂げました。本記事では、これを実現した当事者たちのリアルなインタビューを通じて、組織的な変革がどのように行われたのか、その結果得られたものは何か、という点について深く掘り下げていきます。自社の組織変革を検討中の企業の皆さん、是非ご一読ください。
GCストーリーでは、2016年頃から組織のあり方についての議論が役員の間でスタートし、2018年2月にヒエラルキー型組織から自律共創型組織へと移行しました。
そして、この取り組みは2018年にWork Story Award 2018で「W学長賞」、2020年にホワイト企業大賞の大賞、2021年、2022年には、職場環境優良法人で2年連続低ストレスな会社として全国1位を受賞しました。
建築業界で、もともとどっぷりとヒエラルキーだった組織を自律共創型に組織変革。決して一筋縄ではいかなかったリアルな実践ストーリーを、変化を体験した当事者たちのインタビューを通じて、より立体的に、より生々しく、お伝えしていきます。
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売上が下がる中、何をしてもうまくいかなかった
組織変革へと方向転換する最初のきっかけは、経営陣自身による、現行マネジメントへの疑問。2016年、3ヶ月に1度の経営合宿で口火を切ったのは、常務取締役の萩原でした。
〈萩原 典子〉GCストーリー株式会社 常務取締役
新卒でリクルートに入社後、2005年にGCストーリーの創業メンバーとして参加。創業当初より幸せな組織作りにこだわった人事制度や文化作りに注力。パフォーマンスの最大化の側面から組織の在り方、個人の心の問題の重要性を感じ、自己肯定感の重要さや発達心理学の応用に着目。現在は組織デザイン事業部を立ち上げ、自律共創型組織の構築支援、個人のカウンセリング・コーチングなどが主な業務としている。
もともとGCストーリーはクライアント1社に売上を依存する形になってしまっていたので、「このままではいけない」という危機感がありました。そんな中、2015年にそのクライアントの売上が一気に落ちはじめてしまった。経営的には「ここから経営基盤を改善していこう」と前向きにとらえてはいたものの、その時期、正直社内は大変でした。
なぜなら、実はその前の年に社内でちょっとした事件があって、離職率が30%を超えてしまっていたんです。その状態で売り上げが下がってしまい、経費削減や新規事業立ち上げもなかなかうまくいかず、結局その年は赤字になってしまった。
ー2016年はどのような経営をされていたのですか?
当時GCストーリーでは「アメーバ経営※1」という経営スタイルを取っていました。アメーバ経営のメリットはたくさんあるけど、組織形態は強いヒエラルキー、「ティール組織」の組織発達段階※2でいうとオレンジでした。
(画像はhttps://globalleaderlab.com/teal_organizationよりお借りしました)
※1 アメーバ経営:フィロソフィ(理念)の浸透と独自の会計管理手法で経営する方法。現京セラ名誉会長・稲盛和夫が考案。企業の人員を6~7人の小集団(アメーバ)に組織し、アメーバごとに「時間当たり採算=(売り上げ-経費)÷労働時間」を算出し、時間当たり採算の最大化を図る。(参考: https://bit.ly/2FLdgG7)
※2 組織発達段階:フレデリック・ラルー著「ティール組織」の中で紹介されている。発達段階ごとに色付けされており、レッド=衝動型組織、アンバー=順応型組織、オレンジ=達成型組織、グリーン=多元型組織、ティール=進化型組織とされている。(参考:https://bizhint.jp/keyword/113325)
経営会議には各アメーバのリーダーが参加するのですが、経営陣がリーダーを詰めるハードなスタイルでした。「なんで数字を達成できないんだ」とか、「その失敗の原因は何なんだ」など、達成できていない要因を詰めるというスタイルで解題の解決方法を経営陣が提供するといった形でした。
いままでの価値観が崩れた瞬間
その辛そうなリーダー達を見て経営陣が「あれ?このやり方だとしんどいの?もしかして、時代が変わってきたのかな?」となんとなく気づき始めました。
当時の経営陣は30~40代で、上下関係があって、叱られながら頑張るという価値観でした。しかし、GCストーリーで大半を占める新卒入社の20代の若い世代の価値観は私達とは違うのかもしれない。ちょうどその時期に、自分達の価値観だけで経営していくのは難しいんじゃないかと改めて認識する出来事が役員合宿で起こりました。
人事担当者との繋がりから、新卒採用の施策について学生で起業している方が提案資料を提出してくれたんです。それがもう、役員一同、全然良さが分かりませんでした。この内容で本当にうまくいくのか?受け入れられるのか?と、しかし彼は結果をどんどん出していってくれた。自分達の価値観ではどうにもならない、正しいと思ってきた自分の価値観が大きく揺らいだ瞬間だったと思います。
そこから、「社員全員の幸せを願うのであれば、今までとは違うやり方、あり方を模索していく必要がある。」そう強く思うようになって、2016年末の経営合宿でそのように経営陣に問いかけました。
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ーその時、西坂さんはどのように感じていましたか?
〈西坂 勇人〉GCストーリー株式会社 代表取締役社長
看板会社専門の材料商社で働きながら、インターネットに可能性を感じて社内で事業を立ち上げる。2000年に独立し、「看板ナビ」を立ち上げ、4800社が登録するサービスへと成長。代表取締役社長としてサイベイト株式会社(GCストーリー株式会社に社名変更)を設立。稲盛和夫氏が立ち上げた盛和塾で理念経営を学び、自律共創型組織であるティール組織を取り入れ、高エンゲージメント/低ストレスな組織を実現し。2014年に「稲盛経営者賞」の非製造業第二グループ第1位、2019年に「ホワイト企業大賞」大賞、2016~2020年に「働きがいのある会社ランキング」5年連続ベストカンパニーを獲得。起業家の支援にも力を入れ、EO North Japanの理事も務めている。
稲盛さん(京セラ・第二電電(現・KDDI)創業者、アメーバ経営考案者)をとても尊敬していたので、タバコを吸いながら灰皿を投げる経営会議スタイルに憧れてました。
一方で、グラデーションのように価値観が徐々に変化していくのも感じていました。
私たちは盛和塾で無茶苦茶怒られたりしていました。しかし、怒って貰える有り難さにハートの芯を貫かれるような感じがあり、頑張れました。
社員の中にもそれで頑張れるメンバーもまだ多かった。
だから会社でもそういう空気だったのだけど、なんか変わってきたぞ。と感じていました。
「怒られたくないらしい??え?」って役員で相談した記憶があります。だって私たちは怒られて成長してきたので、成長したいが怒られないって…
相手の成長を祈っていることに変わりはないんだけど、手法は変わる訳です。詰めても萎縮するだけで、意味がないって、全体としての方針転換点をそのタイミングで感じました。
ちなみに、思いきった変革をしてもうちの社員は絶対に変な方向には向かないという信頼が圧倒的なので、変革とかあまり気にせずやれてます。
組織コンサルティング専門家より一言
〈山田 裕嗣〉株式会社 令三社 代表取締役
人材育成・組織開発のコンサルティング、大手ITベンチャーのHRを経て、2012年よりBtoB SaaSの株式会社サイカの創業に参画、代表取締役COOを務める。2017年に独立し、上場を目指すベンチャー企業の組織戦略の立案・実行、大企業の人材育成や新規事業の立ち上げ等を支援。2021年10月に株式会社令三社を設立、代表取締役に就任。ティール組織・自己組織化などに関する国内外の有識者との議論や、新しい組織運営を目指す企業のサポートを手掛ける。『すべては1人から始まる』(英治出版)翻訳・監修。
ティール組織の中で言われている組織の発達段階は「世界の捉え方」が変わること、もう少し詳しく言えば、「より複雑に世界を捉えるようになる」方向への変化だと言われています。
経営陣が「昭和時代の価値観だった」と語られているのは、まさに「世界の捉え方が変化したこと」を、自分たちらしい言葉で表現されているように感じます。
また、「世界の捉え方」は、急激に変化するのではなく、いくつかの転機(もしくは”事件”)を経ながら、「気付いてみれば昔とは違う」と後から自覚できる、そういった緩やかな変化という形を取ることの方が多いです。
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