【組織変革#2】「我慢」から始まる組織変革、その背景と方法
前回の「【組織変革#1】経営層が語る、自分たちの価値観が崩れた瞬間」で「社員全員の幸せを願うのであれば、今までとは違うやり方、あり方を模索していく必要がある。」と強く思うようになったGCストーリーの経営層。組織変革をしていく上で、最初にもらったアドバイスは「我慢」でした。
自律共創型組織へ変革する上で、経営者自身による「我慢」と「信じること」がいかに重要で、それが社員の自発性を引き出し、健全な議論を生み出すかについて解説します。組織の風土とは何か、自発性を高める工夫とは何かにつながります。経営者や企業の担当者の方々への有益な情報を提供していますので、ぜひご一読ください。
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「経営者はとにかく我慢してください」社外取締役の伴走
〈茂木 崇史〉株式会社BOLBOP 代表取締役
東京大学経済学部卒業。マッキンゼーアンドカンパニーに勤務後、株式会社リンクアンドモチベーション(東証一部上場)にて、ブランドマネジメント事業部執行役などを歴任。その後、東日本大震災をきっかけに2012年に独立。気仙沼に一般社団法人まちの誇りを設立し、復興に向けて地域や世代を超えたコミュニティを創造する活動を行う。人を起点にした地域活性事業を継続的に行うべく、2013年に株式会社BOLBOPを設立。
ー当時、どのようなアドバイスをしたのでしょう?
当時の会議は「詰めるスタイルのマネジメント」で、答えは経営層が出すという意識が根付き、メンバーの自発性が生まれにくい会議スタイルでした。
まず初めに西坂さんに言ったのは、「我慢してください」ということです。親切なリーダーほど「自分が何かしてあげないと彼・彼女は前に進めないのでは」と考え、助けの手をすぐに差し伸べてしまうんです。でも、そこをあえて言わない、手を出さない。「いつかは自分でできるようになる」と信じて待つことが、社員の自発性・内発的動機を引き出す大きな一歩になります。でも「言えない、手を出せない」と経営者はストレスが溜まる。だから「キックボクシングでも始めてください」とアドバイスしました。
経営者として一番できることは信じること
〈西坂 勇人〉GCストーリー株式会社 代表取締役社長
看板会社専門の材料商社で働きながら、インターネットに可能性を感じて社内で事業を立ち上げる。2000年に独立し、「看板ナビ」を立ち上げ、4800社が登録するサービスへと成長。代表取締役社長としてサイベイト株式会社(GCストーリー株式会社に社名変更)を設立。稲盛和夫氏が立ち上げた盛和塾で理念経営を学び、自律共創型組織であるティール組織を取り入れ、高エンゲージメント/低ストレスな組織を実現し。2014年に「稲盛経営者賞」の非製造業第二グループ第1位、2019年に「ホワイト企業大賞」大賞、2016~2020年に「働きがいのある会社ランキング」5年連続ベストカンパニーを獲得。起業家の支援にも力を入れ、EO North Japanの理事も務めている。
ー「手放してください」「キックボクシングをしてください」と言われて、実際どうでしたか?
実は、僕は社員を信じていたのであまりストレスは感じなかったんですよ。だから、キックボクシングはしていません。
組織の動きを見て、自分の考え方について反省したのかもしれないですね。「部署で区切って数字を把握せず、全体の数字を見るだけで協力するなんて無理だ」という自分のメンタルブロックが崩れた瞬間でした。
その上で考えてみると、経営者として一番できることは「信じること」だと思いました。「信じること」は不安を伴うけれど、そんなのは自分の小さな独善的なエゴだなと感じました。
経営者が我慢することで、経営会議で何が起こったのか
僕は月に1度の経営会議に同席するという形で「組織変革」の伴走をしていましたが、関わり始めた頃は「詰めるスタイルのマネジメント」だったので、健全な議論がなされていない印象でした。
健全な議論になっていない理由は、やはりマネージャー層が「怒られたくない」という気持ちで怯えてビクビクしてしまい、自由に言いたいことが言えない空気にあると思います。そこで、経営層に「我慢してください」とお伝えし、少しでもマネージャー層が本音で話せるよう「それぞれが今抱えている悩みについて、まだ整理されてないモヤモヤした状態でも良いので話す」時間を設けました。
スタイルを変えて1〜2回目は誰かがモヤモヤを話しても、「シーン」と静かになるだけで終わっていましたが、「それもそれでいいのだ」という認識で進めていきました。3〜4回目には少しだけ会話の量が増えて、滞っていた空気が循環してきたような印象を受けました。
以前は会議中に笑い合うような雰囲気はありませんでしたが、徐々に笑いが増えて、「シーン」とした沈黙に対しても笑いが起こって次の議題へ行く、という場面も見られるようになりました。
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意思決定を課題解決型から課題確認型へーアドバイス・プロセスの素地
ー意思決定のスタイルはどのように変化していったのでしょうか?
本音で話す雰囲気を醸成することで、意思決定のスタイルを「課題解決型から課題確認型へ」移行しようと試みていました。
課題解決型とは、担当者が課題を会議に持っていき、「解決策を持っている」経営層から「なんでできないの?」「なんで失敗したの?」と糾弾されながら、その場で問題を解決しようとするスタイルです。
メリットはスピードが早いこと、デメリットは「怒られたくない」と担当者が怯えるので失敗を隠そうとしたりして情報の正確さが失われること、担当者が自らの頭で考えなくなる傾向が強くなることです。
課題確認型とは、担当者がモヤモヤを会議という「場」に出し、経営層が「どう考えると良いか」「本質的な課題は何か」などをアドバイスという形でシェアし、会議の場では適切な課題設定に注力します。課題が明確化したら、後は担当者が自ら解決策を探します。
メリットは担当者が自ら考えるようになること、あらゆる情報を元に適切な課題設定ができること、デメリットは課題解決のスピードが下がることです。
『ティール組織』でも「アドバイス・プロセス」という「誰でも関係者にアドバイスをもらいながら意思決定できる」方法が紹介されていますが、課題確認型の議論スタイルはまさに、アドバイス・プロセスの素地になっていったと思います。
ー意思決定スタイルを変更した結果どんなことが起こりましたか?
最初は変革をしようとパワーをかけているので全体が課題確認型になろうとしている空気でした。でも、それも絶対的に正しいわけではないんですね。課題確認型を強制したら意味がないんです。
なので、徐々に「自由な選択として課題解決型を選んでもいいよね」という空気になり、マネージャー陣の中で数名は「課題解決型で詰められた方がモチベーション上がります!」という人も出てきました。そうやって、会議の中で「課題解決型でお願いします!」「僕は課題確認型がいいです」と自由に選べるグラデーションを経て、全体的に課題確認型に移行していったような流れでした。
課題確認型では「成長を実感できない」「ぬるま湯に感じられる」という人もいたと思います。そういった中でも課題確認型のスタイルを取り続けたのは、意外とそれでも業績を維持できたことと、心理的安全性が明らかに高くなったこと、社員が自律して考えるようになっていったことが大きいと思います。
実際に現場でどうやって導入したのか?ー守破離で「課題確認型」を浸透
当時社外取締役の茂木の施策を、経営管理として現場との橋渡しを行った関口。どんな苦労があったのかを聞いてみました。
〈関口 香菜子〉GCストーリー株式会社
2012年新卒入社。管理部の経営管理に配属され、アメーバ経営の浸透に従事。経営会議の運営等も担当し、2018年9月より産休・育児休業に入る。組織デザイン事業部では、自律経営システム導入のコンサルタントとして、他社への経営管理や社員の自律育成に尽力。現在では、第3子を出産し育児休業中。
ー具体的にどうやって「課題確認型」を浸透させたのですか?
まずは会議のフォーマットを変更しました。週に1度のマネージャーとメンバーによる会議では、「今の課題は何か?」について自然に考えられるようなアジェンダにして、課題が不確かでも詰めないように調整しました。
初めは「今の課題は何ですか?」という問いかけで進めていましたが、「課題」という言葉を使うと「ちゃんとした課題を発見して話さなければならない」というプレッシャーが働くことに気づき、途中から「モヤモヤ」という言葉に言い換えて使っていました。そうすることで、より多くの情報を出せるようになり、本質的な課題に近づけるようになったと思います。
ースムーズに浸透しましたか?
それが、課題確認型には、より女性の方が馴染みやすいということが分かったんです。男性マネージャーは「解決したい」という気持ちが強くて、課題確認型に対してより「課題を解決してはいけないんだ」というモヤモヤを抱えやすいのだなと思いました。
課題確認型を上手に使いこなしているマネージャーもいて、うまくファシリテートしたりゲームを取り入れたりしていて、そういったチームは雰囲気もすごく良くてどんどん数字の結果も出ていきました。
ーどんなところに苦労しましたか?
言葉の一人歩きに対しては悩みました。課題確認型の目的って、「ミーティングを活性化して一人一人が当事者意識を持ってみんなでいい方向に向かっていくこと」なんですが、「課題解決型じゃなきゃダメなの?」という捉え方をしてしまう人もいて、逆に自由に話せなくなったり、会議がよそよそしくなってしまったりしました。
なので、そこに対しては「守破離」で対応しました。
・最初はとにかく課題確認型を浸透させて植え付ける
・ある程度浸透したら、「別に解決策言っちゃってもいいんじゃない〜?」と緩ませる
・各自が自分の内発的動機で課題解決型でも課題確認型でも選べるようにする
茂木さんに相談しつつ、みんなと対話して空気を感じながら実行していきました。
まとめ
組織変革の成功のためは、経営者自身による「我慢」と「信じること」が重要です。また、議論のスタイルを「課題解決型」から「課題確認型」へと変化させることで、社員の自発性・内発的動機を引き出すことが可能となりました。この方法はGCストーリーでは初めての取り組みであったため、様々な課題や苦労がありましたが、「守破離」の概念を用いて取り組み、最終的には議論のスタイルに固執するのではなく、社員一人ひとりが自由に選択し、全体視点を持ち主体的に考えることが可能になりました。
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