幸福な社員が組織を強くする。「パーパス・マネジメント」著者丹羽真理氏と考える組織と幸福【イベントレポート】
2024年9月18日(木)に開催された経営者・人事担当向けイベント「幸せな組織とパーパス経営」の様子をお届けします。
イベントのフル動画を公開しています。動画で見たい方はこちらから↓
この講座は『 “幸せ”と“成果”を両立する組織づくり』をテーマに、重要なノウハウをお持ちのゲストをお招きし、未来を切り開くための7つの羅針盤を探求する連続講座の第4回目です。
今回のイベントでは、Ideal Leaders株式会社の共同創業者でありCHO(Chief Happiness Officer)の丹羽真理氏をお招きしました。丹羽氏は「パーパス・マネジメント―社員の幸せを大切にする経営」を出版されています。
「組織の成果と社員の幸福は両立し得るのか?」
「社員個人の幸福を追求すると組織が弱くなってしまうのではないか?」
このようなお悩みを持つ方は、ぜひ最後までご覧ください。
第6回イベントへのお申込みはこちら
https://teaminsight.gc-story.com/seminar/35
登壇者紹介
丹羽真理
Ideal Leaders 株式会社 共同創業者/ CHO (Chief Happiness Officer)
国際基督教大学卒業、University of Sussex大学院にてMSc取得後、株式会社野村総合研究所に入社。民間企業及び公共セクター向けのコンサルティング、人事部ダイバーシティ推進担当等を経て、社内ベンチャーIDELEA(イデリア)に参画。
2015年4月、アイディール・リーダーズ株式会社を設立し、CHO(Chief Happiness Officer)に就任。社員のハピネス向上をミッションとするリーダー「CHO」を日本で広めることを目指している。
2018年にはウェルビーイング経営・働きがい向上に関する著書「パーパス・マネジメント―社員の幸せを大切にする経営」を出版。
萩原典子
GCストーリー株式会社 CHO
ココシフの運営会社GCストーリーを2005年に実弟と立ち上げ、創業当初から組織のパフォーマンスの最大化と同時に全従業員の幸福にこだわった組織作りを行ってきた。2015年ころからは働きがいのあるランキングやホワイト企業大賞など数々の賞を受賞。
2020年からはココシフブランドを立ち上げ、メンタルトレーナーやコーチとして幸福度や自律度の高い組織作りのサポートを行っている。
なぜウェルビーイング経営に取り組むのか?幸福な社員は成果を生み出す
企業経営において「ウェルビーイング」が注目を集めています。冒頭では、企業がウェルビーイング経営に取り組む背景について解説が行われました。
複数の研究結果が、幸せに働く人々の優れたパフォーマンスを明らかにしています。具体的には、幸せに働く社員は生産性が31%向上し、売上が37%増加、さらには創造性が3倍に向上するという驚くべき結果が示されています。これらの発見により、社員の幸せの追求が、単なる理想論ではなく、実践的な経営戦略として認識されるようになってきました。
このような認識の変化は、成功と幸せの関係性についての考え方における転換をもたらしているのではないでしょうか。従来は「努力をして成功を収め、その結果として幸せを得る」という考え方が主流でした。しかし新しいパラダイムでは、「幸せであることがモチベーションを高め、それが成功につながる」という逆の因果関係が提唱されています。
ここで注目すべきは、金銭的報酬や社会的地位の位置づけです。確かにこれらも重要な要素ではあります。金銭報酬などは「地位財」と呼ばれ、得られる幸福感は一時的なものに過ぎません。昇進や給与アップは短期的な喜びをもたらすかもしれませんが、長期的なモチベーション維持には適していないことが解説されました。
では、仕事における幸せとは具体的にどのような要素から成り立つのでしょうか。
丹羽氏より、4つの重要な要素が提示されました。それは「Purpose(存在意義)」「Authenticity(自分らしさ)」「Relationship(関係性)」「Wellness(心身の健康)」。これを言い換えれば、「自分が意義を感じられる仕事を、自分らしく、周囲と良い関係を築きながら実現でき、そのための土台として心身の健康が備わっている状態」を指します。
「仕事における幸せ」をもたらす4要素
講演では、ここからさらに幸せに働くための4つの重要な要素「Purpose(存在意義)」「Authenticity(自分らしさ)」「Relationship(関係性)」「Wellness(心身の健康)」の詳細な解説がされました。
特に注目を集めたのは、「パーパス(Purpose)」であり特に丹羽氏は、組織のパーパスと個人のパーパスの「重なり」を強調しました。経営において組織のパーパスに注目が集まっていますが、社員個人のパーパスはどうでしょうか。
「自分は何のために存在しているのか」「人生の目的は何か」を見出すことの重要性です。両者が重なり合う時に、仕事への向き合い方が大きく変化する可能性が示唆されました。
続いて「オーセンティシティ(Authenticity)」です。ここで興味深かったのは、従来の「弱みを克服する」アプローチではなく、「強みを活かす」重要性です。研究によると、強みを活かしているチームは生産性が12.5%も高いようです。また、仕事における自己決定権の重要性も指摘され、働く時間や場所、方法について一定の裁量を持つことが、幸福感に大きく影響するという研究結果が紹介されました。
「リレーションシップ(Relationship)」のセクションでは、職場における人間関係の質を高める方法について、具体的な説明がありました。特に印象的だったのは、ポジティブフィードバックの重要性です。ネガティブなフィードバック1に対して、ポジティブなフィードバックを3程度の割合で行うことが理想とされます。「当たり前のことができて当然である」考えから脱却し、日常的な承認の重要性が強調されました。
最後に、ウェルネス(Wellness)について触れられました。他の3要素を実現する上での基盤として、心身の健康の重要性が語られています。多くの企業が「健康経営」として取り組んでいるものの、これだけでは不十分で、前述の3要素と組み合わせることの必要性が指摘されました。
社員の幸せは業績低下を招く?“幸せ=怠け”の誤解
イベント後半はパネルディスカッションを通して「これからの組織」について対話を深める時間となりました。
企業パーパスの策定方法には、全社員参加型から経営陣主導まで様々なアプローチが存在します。
ただ策定方法以上に、その後の浸透プロセスが重要だという点が最初のディスカッションのテーマとなりました。特に経営陣主導の場合、現場との認識ギャップが生じやすく、パーパスの策定はゴールではなくスタート地点として捉えるべきだと指摘されています。
組織で機能するパーパスの実現には、個人の共感が最も重要であり、個人と組織のパーパスの接点を見出す方法が話されました。具体的には、社員個人のパーパスを探り、組織のパーパスとの重なりを考えます。組織のパーパス実現が個人にもたらす意味や、個人のパーパス追求が組織に貢献する側面を見出すことで、双方向の関係性が構築されます。
しかし、このような取り組みを実践している企業はまだ少数派のようです。その背景として、かつては「なぜ会社がコストを払って、必ずしも業務に直結しない個人のパーパスを考える機会を提供する必要があるのか」という疑問や、「社員が自身のパーパスに目覚めて退職してしまうのではないか」という懸念が存在していました。
ただし、近年ではこうした懸念は減少傾向にあります。組織のパーパスと個人のパーパスが重なり合うことで、社員の自己決定力や主体性が高まり、それが組織の自律性向上につながるという理解が深まってきているためです。社員の幸福と組織の成果は両立し得るのです。
コロナ禍以降、新たな課題も浮上しています。リモートワークの普及により、個人の働き方の自律性(オーセンティシティ)は高まりましたが、一方で組織内の人間関係(リレーションシップ)の構築が困難になっています。週3日の出社を義務付けるなどの施策を導入する企業もありますが、これは柔軟な働き方を求める従業員の反発を招くこともあります。個人の自律性と組織としての一体感、この一見相反する要素をいかにして両立させるかが、現代の経営者たちの悩みどころとなっています。
では、本質的な「幸せな働き方」とはどのようなものでしょうか。今回のイベントでは、単なる福利厚生の充実や表面的な「幸せ」の追求ではないと指摘されました。むしろ、自己決定権の尊重や、個人と組織のパーパス(目的)の明確化、そして成長と貢献の機会提供こそが重要だと強調されています。
注目すべきは、ウェルビーイング経営への転換が、決して「楽」な道のりではないという点です。「幸せな働き方」と聞くと「楽な働き方」といった誤解して認識される方も一定数いるのかもしれません。しかし、自分の人生の目的を考え、主体的に決断を下すことはむしろ「楽ではない」と解説します。社員の幸福を考えると怠けてしまうといった思い込みは誤解であり、むしろ主体性や自律して働けるようになります。結果として組織の成果も向上するのです。
組織のパーパスと個人の自律性。この二つの要素のバランスを取りながら、持続可能な組織文化を構築していくこと。それは簡単な道のりではありませんが、避けては通れない課題でもあります。今回のパネルディスカッションを通じて、困難な挑戦に取り組む意義について気づきとなったイベントになりました。
次回は、NPO法人場とつながりラボhome's vi 代表理事であり、『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』解説者の嘉村賢州氏をお招きし、次世代型組織の実現と、組織づくりの実践に役立つトークセッションを行います。
ご興味ある方は下記リンクより詳細をご覧いただきお申し込みください。