
仕事における主体性について 主体性を育む5つのステップから主体性を削ぐ原因まで解説
指示待ちのメンバーが多い。もっと主体性をもって働いてほしい。
このような声は、人事担当者や組織のリーダーから頻繁に聞かれます。変化が激しく予測困難なVUCA時代において組織の成長やパフォーマンス向上のために、メンバー一人ひとりが主体性を発揮することがますます必要不可欠となっています。
しかし、主体性を育てることは容易ではありません。これは、主体性の発揮を阻む心理的・社会的な要因が複雑に絡み合っているためです。
たとえば、人間の行動には、リスクを避け現状を維持しようとするネガティブバイアスが根強く存在します。加えて、挑戦や失敗に対して寛容とは言い難い社会的な風潮も、個人が主体性を発揮するハードルを高くしています。さらに、義務教育においても画一的な価値観や受動的な学びの形が強調されることで、自ら考え行動する力を育みにくい環境が構築されています。
このような要因が絡み合い、組織の現場で急に主体性を求めても、それを自然に発揮できるメンバーは多くありません。
「メンバーが主体的に行動しない」という現象を個人の問題に帰属させるのではなく、自組織が主体性を阻害していないかを見直すことが不可欠です。たとえば、心理的安全性が低い環境では、失敗への恐れからメンバーは指示を待つ姿勢を強めてしまいます。組織が変わらなければ、そこにいるメンバーが変わることは難しいでしょう。
本記事では、社員が主体性を発揮できる組織を目指すために必要な方法や仕組み、そしてその重要性について解説します。
<目次>
目次[非表示]
主体性について
主体性とは、自ら考え、行動し、その結果に対して責任を持つ能力を指します。他者の指示や外部環境に依存せず、主体的に課題を見つけ、行動を起こす力は、個人および組織の持続的な成長において不可欠な要素です。
特に現代のように変化が激しく、不確実性が高まるVUCA時代(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)において、従来のトップダウン型のマネジメントでは、複雑性とスピードへの対応が困難になっています。このため、メンバーが主体性を発揮し、自ら課題を発見し、その解決策を立案・実行することが、組織全体の競争力を高めるために必要不可欠です。主体性のある行動は、単に業務効率を向上させるだけでなく、イノベーションを生む土壌となり、チーム全体の成果に直結します。
また、主体性は個人の成長にとっても非常に重要です。心理学的な視点から見れば、主体性の発揮は自己効力感(Self-efficacy)を高める効果があり、これにより個人は自己の能力に対する信念を強化します。この信念は、新しい挑戦に対する意欲を引き出し、より多くの成功体験を生み出します。さらに、自主的に行動し多様な経験を積むことで、スキルや知識が向上し、自己の可能性を広げる機会が得られます。
主体性を持つことは、単に職場でのパフォーマンスを向上させるだけでなく、個人の人生やキャリアを主体的に切り開く原動力となります。現代の組織においては、個々のメンバーが主体性を発揮できる環境を整えることが、組織全体の成長を加速させる鍵であると言えるでしょう。
主体性を育てる5つのステップ
個人の主体性を発揮させる組織づくりについてまとめます。
1.失敗を恐れない組織文化の構築
主体性が発揮される組織には共通点として、心理的安全性の高さが挙げられます。心理的安全性とは、組織の中で個々のメンバーが自分の意見や考えを自由に表明できる状態を指します。この状態では、発言や行動が批判や非難を受けることへの恐れが少なく、メンバーが安心して挑戦やリスクを取れる環境が整っています。心理学者エイミー・エドモンドソンが提唱したこの概念は、イノベーションやチームパフォーマンスを高める重要な基盤であるとされています。
主体的な行動を取ろうとしたときに、「無理だ」「それは間違っている」と頭ごなしに否定される経験は、メンバーの主体性を抑制します。このような経験は、メンバーが自己表現や課題解決に向けた行動を避け、受動的な「指示待ち」の姿勢を取る原因となります。その結果、組織全体としての成長機会を損失するリスクが高まります。
心理的安全性を育む組織文化を築くためには、リーダーシップが重要な役割を果たします。リーダーは、メンバーの意見やアイデアを真摯に受け止める姿勢を示し、失敗を許容する文化を体現する必要があります。たとえば、意見を否定するのではなく建設的な議論に昇華させたり、失敗を成長の糧として評価することが求められます。これにより、組織内における挑戦と学びのサイクルが促進され、メンバーの主体性を自然に引き出すことが可能になります。
2.組織ビジョンへの共感
人は何かに共感したとき、自発的に行動するエネルギーが内側から湧き出る特性を持っています。この特性は、組織内でも同様です。企業が目指す方向性や提供する価値について明確なビジョンを持ち、それを社員に適切に共有することで、メンバーは自分の役割や意義を理解し、主体性を発揮しやすくなります。ビジョンへの共感が、内発的動機づけを促し、行動の推進力となるのです。
ビジョンの共有と浸透の重要性は、組織論やモチベーション理論においても広く議論されています。心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)では、人が自主的に行動するためには、自律性(自分で選択している感覚)、有能感(自分の能力を実感すること)、そして関係性(他者や組織とのつながりを感じること)が必要だとされています。企業のビジョンやミッションに共感できる環境は、社員が組織との関係性を築くうえで重要な役割を果たします。
しかし、企業のビジョン共有がうまくいっていない例は少なくありません。多くの組織で、ビジョンがトップダウン的に提示されるだけで、社員が「自分ごと」として捉えられていないという課題が指摘されています。例えば、企業のミッションが一方的に掲げられるだけでは、現場の社員がそれを自身の行動に結びつけられず、結果として形骸化してしまうことがあります。
これを防ぐためには、ビジョンの共有と対話のプロセスが欠かせません。具体的には、以下のような取り組みが効果的です。
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全社ミーティングの定期開催
企業のミッションやビジョンを全社員に伝える機会を設けます。これにより、組織全体が目指す方向性を明確にし、一体感を醸成することができます。
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部門やチームごとのディスカッション
部門ごとにミッションの実現方法や現場での具体的な貢献について意見交換を行います。この取り組みによって、ビジョンが個々の業務に関連づけられ、「自分の役割」を明確にすることが可能になります。
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ストーリーテリングの活用
ビジョンやミッションに基づいた成功事例を共有し、それが組織や社会にどのような価値をもたらしたかを具体的に伝えることで、社員の共感を深めることができます。
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双方向のコミュニケーション
社員がビジョンについて自由に意見を述べる機会を設けます。リーダーが社員の意見を受け入れ、建設的な対話を重ねることで、社員が主体的に行動するための動機づけにつながります。
このような取り組みを通じて、社員が組織のビジョンを単なるスローガンではなく、「自分自身が成長し、社会に貢献できる機会」として捉えるようになります。結果として、社員の主体性が高まり、個々の行動が組織の目標達成に直結する、持続可能な組織文化を形成できるのです。
3.権限移譲
メンバーが主体性を発揮するためには、組織の制度や仕組み自体も見直していく必要があります。その中でも特に重要なのが権限移譲です。権限移譲は、従来のトップダウン型組織から自律的で柔軟な組織への転換を実現する重要な要素であり、メンバーが自己の判断で行動し、責任を持つ環境を整備する鍵となります。
権限移譲の重要性
主体性を発揮する環境を整えないまま、上司が細かい指示を出し続けたり、判断の全てを握るヒエラルキー型の組織を維持していると、メンバーは次第にやる気を失い、「指示待ち」の姿勢に陥りやすくなります。この状況は、上司が「優秀さ」や「管理能力」を発揮しようとするあまり、メンバーの自主性を阻害してしまう、いわゆるマイクロマネジメントの典型的な弊害と言えます。
権限移譲を進めるには、メンバーが自己の裁量を持ちながらも組織の目標に向かって行動できるよう、責任と自由の範囲を明確に定義することが重要です。
自由と自分勝手の違い
権限移譲を進めるプロセスでは、「自由と自分勝手の違い」というテーマがしばしば議論されます。自由とは、メンバーが自ら判断し行動する裁量を持つことを意味しますが、これには必ず責任が伴います。一方、自分勝手は、組織の目標や他者との協調を無視した行動を指します。権限移譲を進めていく初期段階ではこれらの区別について、意識のすり合わせが必要になることが多いです。信頼をベースにした組織変革がうまく進んでいくと、一人一人の視座が高まり、この議論は少なくなっていきます。
4.情報の透明化
権限移譲が進むことで、メンバーが主体的に課題を発見し、意思決定を行う機会が増えます。しかし、このプロセスを成功させるためには、情報の透明性が不可欠です。メンバーが正確かつ適切な判断を下すには、必要な情報がタイムリーに共有されていることが前提となります。
情報共有と透明性の重要性
情報が十分に共有されていない状況では、意思決定の質が低下するリスクが高まります。例えば、不完全なデータや不明確な目標に基づく意思決定は、組織の方向性とずれる可能性があり、主体性を発揮するどころか逆効果を招くことさえあります。このような状況を防ぐためには、情報がフラットかつ包括的に共有される仕組みが求められます。
情報共有の透明性を高めることは、主体性を育むだけでなく、メンバー間の信頼関係の構築にも寄与します。情報が限定的に管理される環境では、不透明さが不信感や不安を生み出し、心理的安全性の低下につながる可能性があります。一方で、情報が組織全体にオープンに共有されることで、メンバーは組織の一員としての責任を感じやすくなり、主体性を持って行動する動機付けが高まります。
5.自己効力感を高める組織づくり
メンバーが主体的に取り組んだ成果を適切に評価し、建設的なフィードバックを行うことは、主体性を育むうえで欠かせない要素です。評価とフィードバックは、メンバーが自らの努力の意味を実感し、自信を深めるきっかけとなります。このプロセスを通じて、メンバーは自身の行動が組織にどのような影響を与えたかを理解し、さらなる挑戦へのモチベーションを高めることができます。
成果の評価がもたらす効果
適切な評価は、メンバーの内発的動機づけを高めるとともに、自己効力感(Self-efficacy)の向上にも寄与します。心理学者バンデューラの研究によれば、自己効力感が高い個人は困難な課題にも前向きに取り組み、失敗を成長の糧とする傾向があると言われています。このため、評価の際には、メンバーの努力を具体的に指摘し、小さな成功体験にも焦点を当ててポジティブなフィードバックを提供することが重要です。
たとえば、「ただ良かった」と抽象的に伝えるのではなく、「今回の提案ではデータの分析が的確で、クライアントへの説得力が増した」といった具体的な観点を示すことで、メンバーは自分の行動の強みをより深く理解できます。
成長を支援する環境の整備
評価とフィードバックに加えて、メンバーが主体的に成長できる環境を整えることも重要です。一人ひとりが自己成長を感じられる仕組みを構築することで、挑戦への意欲を持続的に引き出すことができます。そのためには、以下のような施策が効果的です:
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スキル開発の機会の提供
社内外で実施される研修やセミナー、オンライン学習プラットフォームを活用して、メンバーが新しい知識やスキルを身につけられる環境を整えます。
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資格取得の支援
資格取得を目指すメンバーに対して、試験費用の補助や学習時間の確保をサポートします。これにより、キャリアアップに向けた明確な目標を設定しやすくなります。
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キャリア開発の伴走
メンバーとの定期的なキャリア面談を実施し、長期的な目標やビジョンに基づいて成長計画を立てます。このプロセスは、社員が自らの成長を主体的に考えるきっかけとなります。
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ピアフィードバックの推進
上司からの評価だけでなく、メンバー同士でお互いの成果や努力を称える文化を醸成します。これにより、組織内の相互信頼が高まり、心理的安全性が向上します。
主体性が損なわれる要因
上記の内容を進めていても、主体性を削ぐ要因は色々と出てきます。ここでは2つ紹介します。
1. 上司の成功体験
権限移譲を進めるうえで、できる限り指示を控え、自律的なマネジメントスタイルへとシフトすることが重要である点は、多くの組織で認識されつつあります。しかし、組織内で主体性を阻害する要因の一つとして見過ごされがちなのが、上司の成功体験に基づく指示やアドバイスです。上司自身には悪意がなくとも、自らの過去の成功体験を基準に、「これならうまくいく」「この方法が間違いない」といったアプローチを部下に押し付けてしまうケースが多く見られます。
このような状況は、特にリーダーが実務的な能力に優れている場合に起こりやすく、本人の意図に反して、部下の創造力や意思決定の自由度を制限してしまう結果を招きます。具体的には、部下が独自の考えで解決策を模索したり、リスクを取って挑戦する機会を奪い、「指示待ち」の姿勢を助長するリスクがあります。これでは、組織が求める主体性や自律的な行動が育まれる土壌が失われてしまいます。
主体性を育む組織を構築するためには、リーダーや上司が自らの行動を振り返り、無意識に押し付けてしまうアドバイスや指示の存在に気づくことが欠かせません。これは、単なる自己反省にとどまらず、マネジメントスタイルの意識的な転換を意味します。
2. 自己受容感の低さ
主体性のある組織づくりを進める際に見過ごせない要因の一つが、自己受容や自己肯定感の低さです。これらは、人間関係を構築する力や、困難に立ち向かうチャレンジ精神の土台となる重要な心理的資質です。自己受容が低い状態では、どれだけ外部環境が整備されても、本人がそれを活用し主体性を発揮するのが難しくなります。なぜなら、自己受容が低い個人は、自分の価値や能力に疑念を抱きがちであり、その結果、リスクを取る行動や新しい挑戦を避けてしまう傾向があるからです。
心理学では、自己受容とは「自分の長所や短所を含め、自分自身をそのまま受け入れる力」を指します。この力が低い場合、個人は自己批判的になりやすく、ミスや失敗を過度に恐れるため、行動が制約されがちです。また、自己肯定感が低いと、他者との比較から劣等感を抱きやすくなり、その結果として協力関係を築くのが困難になる場合があります。このような心理的状態は、組織内での人間関係や課題への取り組みに悪影響を及ぼし、主体性の発揮を阻む要因となります。
逆に、自己受容や自己肯定感が高い個人が増えると、組織全体の心理的安全性が向上し、挑戦やイノベーションを受け入れる文化が醸成されます。その結果、メンバー一人ひとりが主体性を発揮しやすい環境が整い、組織のパフォーマンス向上にもつながります。
主体性のある組織づくりには、メンバー個人の心理的資質に焦点を当て、内面的な成長をサポートする取り組みが欠かせないのです。
組織改革を進める際の留意点
主体性を発揮できる組織への組織改革が必要だと感じた場合、以下の点に注意する必要があります。
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段階的な変革を意識する
全面的な改革は、混乱を招くリスクがあります。まずは具体的な施策を少しずつ導入し、改革の効果を測定しながら進めることが推奨されます。
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リーダーシップの役割
組織の変革にはリーダーの積極的な関与が欠かせません。リーダー自身が主体性を体現し、メンバーへの信頼を示すことで、変革が円滑に進む土壌が形成されます。
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メンバーの巻き込み
変革の過程において、メンバー全員を巻き込み、意見を反映させることが重要です。自分たちの意見が取り入れられることで、改革への参加意識が高まり、主体性の発揮につながります。
組織の主体性についてまとめ
メンバーに主体性を発揮してもらうためには、個人の努力だけでなく、組織全体の仕組みや文化を見直す改革が必要になることが少なくありません。現状で主体性が発揮されていない組織では、従来のトップダウン型の管理体制や、固定観念に縛られた運営方法が主体性を阻害している可能性があります。
主体性を引き出す環境を整えるには、単発的な取り組みでは不十分です。組織の仕組みやリーダーシップスタイル、さらには心理的安全性を含む組織文化そのものを変えることが求められます。このような変革を進めるためには、戦略的かつ段階的なアプローチが重要です。
変革を通じて主体性を育む文化を構築することで、組織の成長とメンバーの幸福度を大幅に向上させることが可能です。紹介した5つのステップを参考に、計画的かつ継続的な組織改革に取り組むことで、持続可能な発展を実現しましょう。
▼組織改革を行うにあたり、何から手を付けたらいいか分からない方へ
<組織改革の第一歩、組織サーベイ「TeamInsight」>
変革を行うために、まずはサーベイツールを使って自社組織の現状を把握してください。サーベイツールを活用することで、組織の現状を客観的に把握し、主体性を育てる取り組みを確実に進められます。
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- 2014年 稲盛経営者賞(10億~50億)受賞
- 働きがい䛾ある会社ランキング 5年連続ベストカンパニー 〈2018 女性部門ランキング 1位受賞〉
- Work Story Award 2018 W学長賞受賞
- 第6回ホワイト企業大賞 大賞受賞
- 第1回職場環境優良法人2021,2022,2023 ストレスチェック3年連続 全国1位、日本一働きやすい会社として表彰
(文責:萩原)